コアラのマーチを開封しては自キャラの名前を探す日々

「浮気ですか？」

みなと、ゆうじ、あすか、かける……。他人の名前ばかりプリントされたお菓子を食べる先輩に堪らなくなって嫌味を言ってしまった。

きょとんとした表情の先輩は今日もかわいいけど、やっぱりいまいち理解してもらえてはいないみたいだ。

「急にどうしたの？」

「他の男の名前が書かれたお菓子なんて取っ替え引っ替えに食べてたら、勘違いされちゃいますよ」

もし自分の名前が書かれたお菓子を先輩が食べている所を他の奴に目撃されたら大変だ。でも先輩にはあまり響いていない様子で、その認識の甘さが心配になる。

「一瀬くんも食べたかったの？　沢山あるし、ひとつあげるよ」

そういうつもりじゃなかったんだけどな……。せっかく先輩がくれたものを突き返す気にもなれなくて、そのまま受け取る。他人の名前が書かれたお菓子を先輩からもらうとか微妙な気持ちだな。せめて先輩の名前が書かれてたら、先輩からの「私をあげるね」っていう遠回しな告白みたいで嬉しいのに……。

先輩から渡されたお菓子の表面にプリントされた文字を見て、やっぱり先輩はお菓子になんの文字が書いてあるかなんて気にして無いんだろうなと、気付いてしまった。

「先輩」

「なに？　どうしたの？」

「お菓子交換しませんか？」

「え？　それさっき私があげたやつだよね？　なんで？」

「いいじゃないですか。ね？　ほら、あーん」

「えー？」

お菓子を先輩の口元に寄せれば、素直に口を開いて食べてくれる。その様子が信頼されているようで、甘えられているようで、いじらしくて。

泣き出してしまいそうなくらい、胸がいっぱいになってくる。

先輩が食べようとしていたお菓子を、先輩の手からそっと摘み上げる。

プリントされた名前を確認して。まいと書かれていたら嬉しかったけど、そこには知らない奴の名前が書かれているだけだった。

先輩はまた袋の中から別の男の名前が書かれたお菓子を取り出して食べている。たぶん、そこにどんな名前が書いてあるかなんて気にしてなんかいないんだろう。だって、なつきと僕の名前が書かれていても気付かずにそのまま渡しちゃうくらいなんだから。

それとも、もしかしたら先輩は気付いていてあえて僕に渡したんだろうか。僕に食べさせてほしかったってことなのか……？

僕の名前が書かれたものばかり集めて、一箱丸ごと先輩と交換したら、先輩に僕の名前だけが書いてあるお菓子ばかり食べてもらえるんじゃないか？

なつきの名前がプリントされている確率って、どのくらいなんだろう。

とりあえずあるだけ全部買ってみて、夜に選別作業しようかな……。